私たちの研究ユニットでは、医療の情報化に関する研究の一環として、感染症対策の情報化について取り組んできました。現在進行している新型コロナ感染症の流行に対しても、これまでの研究の成果を生かして、さまざまな貢献を果たしていきたいと考えています。本ページでは、こうしたユニットにおける感染症対策研究について、情報提供します。

プロジェクト

現在、新型コロナ感染症対策として、3件のプロジェクトに公的研究助成を頂いています。

「感染症危機管理における位置情報活用に向けた基盤的技術の開発」

感染力の強い感染症の対策においては、感染者とその接触者を効率的に発見し、拡大防止策を講じることが重要です。そのためには、患者情報の収集や接触者への通知等を迅速に行う必要があります。現在、日本では、このような作業がほぼ全て人力で賄われており、それが感染対策全体にとっての「ボトルネック」となっています。我々は、この問題にパンデミックの発生前から取り組んできました。本研究では、保健所や地方自治体との協力のもと、このボトルネックの解消に向けて下記の研究開発を行っています。

  1. 保健所における患者情報の収集(積極的疫学調査)を支援し、情報の収集・共有・解析を効率化する技術を開発します
  2. 患者の移動・接触情報の効率的な表現を可能とするデータ規格(PLOD: Patient Location Ontology-based Data)を開発し、リスク評価の自動化を目指します
  3. プライバシの保護と高精度な接触リスク情報提供を両立する携帯電話技術を開発します

「携帯電話関連技術を用いた感染症対策に関する包括的検討」

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックにおいて、政府は経済対策やマスク配布など、数多くの施策を緊急で実施しました。そのなかには各種の情報技術の活用も含まれており、携帯電話を利用した接触通知アプリ「COCOA」も、手法としての有効性の検証なく政策として実施されました。こうした技術は、政策効果の検証によりより優れたものへと改善していくことが期待されます。そこで本研究では、COCOAを含む様々な接触通知アプリの技術評価を目指します。

『新型インフルエンザ等の感染症発生時のリスクマネジメントに資する感染症のリスク評価及び公衆衛生的対策の強化のため研究』

感染症危機管理分野では、2009 年豚インフルエンザパンデミック時の反省を踏まえ、国や地方自治体の技官を中心に、来るべき新型インフルエンザへの備えとして、パンデミック対応に資するさまざまな手法や情報システムに関する研究を行っていました。2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックにおいては、多くの情報システムが急造で実践投入され、2009年以来の研究の成果を十分反映させられず非効率な点があることが指摘されています。そこで本研究では、これまでの研究の知見を生かし現在の公衆衛生行政向けの情報技術の評価を行い、効率化の指針を示すことで感染症リスクの低減に貢献します。

論文・発表一覧

原著論文・総説 Tsuchida, N., Nakamura, F., Matsuda, K. et al. Strategies for the efficient use of diagnostic resource under constraints: a model-based study on overflow of patients and insufficient diagnostic kits. Sci Rep 10, 20740 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-77468-2
学会・研究会発表 町田 裕璃奈, 堀 成美, 奥村 貴史,
「新型コロナウイルスパンデミックにおける公衆衛生行政
と情報システム-国内における動向とデジタル庁開設へ向けた教訓-」
情報処理学会 第83回全国大会, 2020年3月
飯野 健広, 早川 吉彦, 奥村 貴史
「発声由来のウイルス拡散制圧を目指すスロートマイク音声処理
-音質向上のための学習用データセットの構築に向けた予備実験-」
情報処理学会 第191回ヒューマンコンピュータインタラクション研究発表会, 2020年1月29日
奥村 貴史
「感染リスク管理における携帯電話技術活用の歴史・現状・課題」,
情報処理学会
第30回コンシューマ・デバイス&システム研究発表会, 2020年1月25日
奥村 貴史,「位置情報と感染症対策─歴史と現状」,
感染症対策目的での医療情報の取り扱いと法倫理
医療情報学会 公募ワークショップ8 (5-D-1-03),
第40回医療情報学連合大会, 2020年11月22日.
江上周作, 大向一輝, 山本泰智, 伊藤真和吏, 坂根昌一, 網淳子, 奥村貴史,
“SARS-CoV-2感染リスクオントロジーの提案”,
人工知能学会セマンティックウェブとオントロジー研究会,2020年11月20日.
町田 裕璃奈, 奥村 貴史,
“新型コロナウイルスパンデミック対策における情報技術のアジャイル開発
国内における動向と課題”,
第154回情報システムと社会環境研究発表会, 情報処理学会, 2020年12月12日.
学会誌 奥村 貴史, “もうひとつのクラスター対策班“,
情報処理,61(10),1012-1013 (2020-09-15)