厚生労働科学研究費補助金
新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業
『新型インフルエンザ等の感染症発生時のリスクマネジメントに資する感染症のリスク評価及び公衆衛生的対策の強化のため研究』
(厚労科研谷口班・研究分担)
感染症危機管理分野では、2009 年の新型インフルエンザパンデミックへの対応により得られたさまざまな教訓を踏まえて、さまざまな研究が進められてきました。これらの研究は、来るべき新型インフルエンザへの備えとするためのものであり、実践的で医療や行政の現場との関係が深いため、国や地方自治体の研究期間に在籍する研究者や技官が中心となって進められてきました。
そうした研究のなかでも、感染症対策の情報化に関する研究は、とりわけ、制度的、予算的な制約が大きいものでした。わが国において、感染症対策は基本的に各地方自治体が主体的に取り組む体制が取られています。そのため、各都道府県は、それぞれの県において独立して保健所や各地方衛生研究所を運営し、情報システムを構築して来ました。主要な感染症の発生動向をを全国レベルで監視するシステムは、国の予算で運営されてきたものの、このシステムも公共調達制度による強い制約を受けたもので、修正も容易ではありません。そこで、こうした制約のもとでいかに来るべき新型インフルエンザに備えるかが検討されてきました。
その後、2020年に生じた新型コロナウイルスによるパンデミックでは、多くの情報システムが急遽開発され、実戦投入されることになりました。我々の研究では、今回開発されたシステムやソフトウェアの数は500を超える規模[1]で、これは、2011年に生じた東日本大震災の際に開発された数[2]を大きく超えます。こうして急造されたシステムの中には、政府や地方自治体のシステムも含まれます。これらのシステムは、目下の必要性に対処するために作られましたが、結果的に2009年に生じた新型インフルエンザによるパンデミックの教訓が生かされないまま作られ、多くの問題が生じることになりました[3]。
本研究では、このように現在進行形で生じているパンデミックへの対応策を中心として、感染症危機管理に関わる情報システム一般の評価を目的として進めています。2009年に生じた新型インフルエンザパンデミックの教訓が、なぜ2020年に生かされなかったのか。その解明は、今後の公衆衛生行政だけでなく、政府の情報化における課題の明確化とその改善に向けた処方箋に繋がるものと期待されます。
FFHSシステムとHER-SYSの評価に関する報告書
▸ COVID-19 パンデミック対応における情報システムの評価
▸ 新型インフルエンザ等の感染症発生時のリスクマネジメントに資する感染症のリスク評価 及び公衆衛生的対策の強化のための研究
関連研究
論文・発表
[1] | 町田裕璃奈,奥村貴史:新型コロナウイルスパンデミック対策における情報技術のアジャイル開発-国内における動向と課題, 研究報告情報システムと社会環境(IS),Vol.2020-IS-154,No.1,pp.1-7 (2020). |
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[2] | Utani, A., Mizumoto, T. and Okumura, T.: How geeks responded in a catastrophic disaster of a high-tech country: Rapid development of counter-disaster systems for the Great East Japan Earthquake of March 2011, Proc. Special Workshop on the Internet and Disasters (SWID ’11), Association for Computing Machinery, pp.1–8 (2011). DOI:https://doi.org/10.1145/2079360.2079369 |
[3] | 日野麻美:HER-SYS はなにが問題だったか─ 先行導入,本導入,改修提案を振り返って─,情報処理,Vol.62,No.1,pp.4-9 (2020). |
[4] | 町田 裕璃奈, 日野 麻美, 堀 成美, 奥村 貴史:新型コロナウイルスパンデミックにおける健康危機管理用情報システム過剰なトップダウンが引き起こしうる逆説的状況と教訓,情報処理学会, vol63, No.3, pp.725-732(2022). |