オプトアウト付き二段階同意手法

 

医療情報ネットワーク普及のボトルネック

医療情報ネットワークの現状

個人や医療提供者は医療情報連携ネットワークに参加すれば、データ利用の利便性が高まり、診療が効率化し、重複投薬や医療ミスが減少すると考えられています。医療ネットワークでは多くの個人が加入することにより社会的利便性が高まるが、その一方で、導入や加入に伴う金銭的/非金銭的なコストが高いために普及が進まない現象が至る所で観測されています。
厚生労働省は、医療分野での情報化を進めるために、医療情報連携ネットワークに対して様々な助成を行ってきましたが、補助事業は現在上手く行っているとは言い難い状況にあるのです。
医療機関や地方自治体は、補助金を利用してベンダーにシステムの構築を依頼しリリースしますが、数年後には参加医療機関数・患者登録数が伸び悩み、システムが縮小したり放棄されてしまう現象が大小様々な医療情報ネットワークで生じているのです。

問題提起のための費用便益分析

本研究ユニットでは、そうした医療情報連携ネットワークのボトルネックについて検討を重ねてきました。医療情報ネットワークは、「国・地方自治体」、「医療情報ネットワーク事業者」、「医療機関」、「医療従事者」、「患者」などのプレーヤーで構成されます。このプレーヤーごとに金銭的コストとベネフィット、非金銭的コスト・ベネフィットを考察し、各レイヤーごとの総和を求める費用便益分析を実施してきました。この分析によって、様々なボトルネックの中でも「患者同意取得」が大きな要因を占めている事が研究の結果明らかになりつつあります。

患者同意取得がボトルネットとなる理由

現行の法制度では、医療情報ネットワークに患者カルテの情報を載せるには、患者本人の同意が必要です。そのため、医療情報ネットワークについて個別に説明を行い、内容に納得した上で本人の承認を得る必要があります。こうした同意の取得は、通常医師の負担を避けるために診療中は行いません。医療事務スタッフによって、患者に声掛けし、説明を実施した上で同意を得るのです。(写真:病院内で声掛けし参加同意を得ている)

こうした声掛けと説明によって同意を得るのは極めて非効率で、同意率も高くありません(約1〜3割程度)。また、医療スタッフがこうした作業に多くの時間を裂かれ、業務効率も悪くなってしまいます。ネットワークによっては、大々的にキャンペーンを実施する場合もありますが、キャンペーンによって高い同意取得率を得るのは、多くの場合困難です。このため、医療情報ネットワークに登録する患者数が伸び悩み、結果的に電子カルテが診療に生かされないという悪循環が生じている、と考えられるのです。

ボトルネックを回避するために

同意取得問題とは?

上述のように患者の同意取得は、極めて非効率に行われています。

  • ▸ ただでさえ多忙な現場で、医師や看護師がネットワークの説明をして、患者に同意書記入をお願いすることは困難
  • ▸ 受付時問診票と一緒に同意書を患者に渡すことは可能だが医療事務スタッフがネットワークの説明をすることは困難
  • ▸病院の病棟看護師に同意書取得を依頼することは不可能ではないが、業務量が多いため「期間限定」で協力を得るのが精一杯
  • ▸ 同意や説明を紙媒体で全て行なっており、説明・同意の有無の管理に大きな負担が生じている
  • ▸ 患者側も同意内容について、どこまで理解しているか、客観的に評価・管理できない
  • ▸ 患者は内容の理解より、医師や医療機関との信頼関係に依存して同意する場合がある
  • ▸ 認知症などの患者については本人の同意を得ることが困難

このように患者一人一人に説明を実施し、納得の上同意を得るのは、非常に高コストで効率が悪いと言わざる得ないのです。また、こうした方法論に拠る以上、患者の同意取得率を上げるのは困難で、そのため医療情報ネットワークへの登録者が伸びず、導入したにも関わらず運用が続かない状況が各ネットワークで生じていると考えられます。

オプトアウト付き二段階同意モデルとは?

二段階同意モデルでは、従来モデルと異なり患者データの登録で不同意の意志表明者以外を患者データとしてデータベースにのせ、情報の閲覧時に患者同意を取るモデルとなります。

これを実現するためには、法的な論点の整理やプライバシー保護の問題、また政策実現に関しては諸問題をクリアする必要があり、ワーキンググループで検討を行なっています。

従来同意モデルと二段階同意モデル同意率の比較

ワーキンググループの実施した実験的アンケート結果


二段階同意モデルは、このようなアンケート結果となります


上記の結果のように二段階同意モデルを実施することで、同意率を飛躍的に高め、医療情報ネットワークの患者参加数を底上げする事が可能であると考えられます。

政策実現への課題

特区設置と住民投票

このような二段階同意モデルを政策として実現するためには、様々な法的なハードルをクリアする必要があります。全国的に導入を実施するには規模が大きいため、まずは北海道地区を中心とした医療特区の設置を目指し、住民投票によって同意形成を得る必要があります。
現在ワーキンググループでは、政策的な解決策の提示や制度的な諸問題へ取り組み、実現を目指しています。

研究代表

奥村 貴史

保健管理センター長
北見工業大学