新型コロナウイルスに代表される感染力の強い感染症の患者が生じたとき、自治体は、患者のプライバシへと最大限の配慮をしたうえで、患者情報のプレスリリースを公開します。新型コロナウイルスによるパンデミックに際しては、各自治体が公開するこのプレスリリースを分かりやすく「可視化」するサイトが数多く登場しました。
しかし、この自治体によるプレスリリースは、各自治体によって異なった様式で公開されてきたことから、データとして活用するには大きな手間を要するものでした。また、これらのプレスリリースに含まれる重要情報の一つである「患者が他人へと感染させた可能性のある行動歴」は、「自由記述文」で記録されており、これもまたコンピューターを用いた自動処理にはなじまず、効率的な活用が困難なものでした。
我々の研究グループでは、この自治体が公開するプレスリリースがいかにあるべきかをパンデミックの前より検討を始め、統計取得や解析などさまざまな活用が可能な、自治体を超えて活用できる標準化フォーマットPLODの開発を進めてきました。このフォーマットでは、公開される匿名での患者の属性情報に加えて、行動情報などが自在に記録できる配慮がなされています。その結果、今まで自動処理が困難であった感染症発生のプレスリリースをオープンデータとして様々な用途に適用することが可能となります。
まず、既にボランティアの手で行われている発生動向の地図上へのマッピング作業の多くを自動化できるようになります。また、注意喚起のための店舗名の報道発表等はどの国でも行われていますが、これが計算可能なオープンデータとして発表されれば、アプリ等で接触リスクを自動計算するような応用も可能となることが期待されます。PLOD方式の行動歴情報は、研究者による空間疫学的な解析もより容易なものとします。このように、コンピュータでの処理に向いた行動情報の標準フォーマットの確立は、感染リスクの管理に向けたさまざまなアプリケーションを実現することが期待されます。
患者情報の公開は他国でも行われていますが、公開された情報量が多すぎる場合もあり個人特定などプライバシー侵害も懸念されています。提案方式は、既存の報道発表の改善をベースとすることで新たなプライバシー侵害発生の懸念を抑えており、オープンデータを出す側にとっても使う側にとっても心配せず情報を共有できる枠組みを目指しています。