病院環境における画像処理を使用した
医者の行動分析システムの開発

 

概要

医療従事者の勤務負担を客観的に評価するために、診察室の映像から、機械学習を用いて問診や診察、カルテ記載などの所要時間を自動的に解析するシステムを開発研究しています。医療従事者の行動を定量化することにより、過酷な環境にある医療現場の負担を軽減する各種技術の研究開発が可能となることが期待されます。

行動分類 ー ラベリング

まず、カメラで定点観測したデータをラベル付けし機械学習によって、診察時の行動を自動的に分類します。

Analysis

骨格推定モデリング

機械学習によって、動画中に搭乗する人物から医師、患者、看護師を識別し、それぞれ体や手足の座標を検出し、行動を自動分類します。

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この処理に際しては、患者の背後に設置したカメラを用いるため、患者個人を特定することは出来ません。また、撮影される映像より、ただちに骨格座標データへと変換し、映像そのものは保存を行いません。こうした手順を踏んだ仕組みとすることで、医療現場という極めてセンシティブな状況下にカメラを設置することで生じるプライバシー問題を軽減することができます。

診療負荷の自動的な定量化

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動画中の医療従事者の行動を分類し、細かな診療内容(会話、触診、PC作業)とそれに要した時間データを取得することで、医師がどのような行動にどれだけ時間をかけたか、定量的なデータを取得することができます。

 

研究の将来

現在は、模擬診療室での研究を通じて機械学習用データを収集し、認識精度の向上に取り組んでいます。この後、協力医療機関において多くの実証実験データを収集し、より精度を高める実験と検証を進めていきます。高精度の多様な行動分析を低コストに可能にする事で、医療現場における様々な行為の分析を可能とし、医療現場の負担軽減を目指します。

研究の背景

日本の医師数は、人口1000人あたり2.4人と、ドイツ(4.3人)の6割、フランス(3.2人)の7割という低水準にあります[1]。一方、国民皆保険制度によって国民が医療機関に気軽に受診できるため、国民一人当たりの病院受診数は12.6回/年と、ドイツ9.9回/年、フランス6.1回/年、アメリカ4.0回/年と比して、大幅に多くの受診があります[1]。結果として、日本は、他の先進諸国と比して、大幅に多い患者を、より少ない医師で対応する必要があり、医療現場の過酷な診療負担が生じてきました。

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[1] 日医総研リサーチエッセイNo.77  医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-

この問題を軽減していくためには、医療現場の診療負担を軽減するためのさまざまな技術の研究開発が必要です。しかし、「医療現場の診療負担」を、客観的、効率的に定量評価する方法が、あまり存在しませんでした。そうした分析のためには、医師が一日の診療においてどういう行為にどれくらいの時間を割いているかを評価する「タイムスタディ」が必要です。しかし、その手段として、「業務時間の自己申告」か「評価者による記録」以外の選択肢がなかったため、客観的な評価が困難であり、また、調査数を増やすことにも限界がありました。さらに、患者一人の診察に要する問診やカルテ記載等を細かく分析することも困難でした。

評価手法の比較

従来の評価手法 提案している評価手法
観察法、アンケート法、自己申告法など 画像処理を用いて行動分析を自動化
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【欠点】人件費が増大し、医師の負担が増える、主観的要素が混ざるため客観性に欠ける 【利点】客観的、多量データ、医師の負担が小さい、プライバシー問題の解決

本研究が社会に与える影響

本研究により、医療従事者の行動を、客観的かつ高精度に、多量に集積することが可能となります。これにより、医療現場へと投入するさまざまな技術が診療負担へと及ぼす効果を定量評価できるようになります。たとえば、電子カルテの導入により、診療効率が低下することは広く知られてきました。本研究により電子カルテの有する診療効率へのインパクトを客観的に評価することにより、「より診療効率の良い電子カルテ」の研究開発を進めていくことが可能となります。
また、医療機関や医師毎の負荷を定量化することにより、より多くの診療負担を負っている医療機関や医師をより公平に評価したり、重点的に支援策を講じるような施策が可能となることが期待されます。これらはすべて、限りある医療資源をより有効に活用し、高齢化を通じて逼迫してゆく地域医療の発展に資するものです。
本研究では、現在、診察室にて診察を行う医師の診療負担の定量化に取り組んでいます。今後、研究対象の拡張により、看護師や作業療法士などのコメディカルの評価へと応用していくことも可能です。さらに、感染症病棟や発熱外来などで活用することにより、院内感染の経路解明や感染防御の高度化が期待されます。

本研究に関する問い合わせ、研究協力はこちら

Abhijeet Ravankar (ラワンカル アビジート)准教授

北見工業大学 工学部 地域未来デザイン工学科
ロボティクス・ AI 研究室