携帯電話を用いた感染リスクの軽減に向けて、日本政府は、COCOAと呼ばれる携帯アプリを公開してきました。COCOAが動作しているスマートフォン同士では、「Bluetooth」と呼ばれる短距離無線技術を介して、お互いが近くにいたことを記録し合います。この記録を用いることで、誰かの陽性が判明した場合、その過去の記録を用いて陽性者との接触の有無を確認することが可能となります。そして、この記録がすべて匿名IDを通じてなされることで、携帯利用者のプライバシを守りつつ、感染リスクの軽減が実現するものと期待されてきました。

しかし、COCOAが採用している方式には、現在感染が拡大している新型コロナ感染症を検知するうえで、いくつかの点で問題が多いものでした。まず、「1m以内に15分間」という接近情報のみを記録するため、見逃しが起きやすく精度が限定的です。また、通勤電車のように近距離で長時間接するものの会話はないために感染は成立しにくい接触を誤検知する懸念があります。さらに、ドアノブなど共通して触るものを介した「接触感染」の検出も困難です。加えて、端末間の相互通信を要し自分がアプリを使っていても相手が使っていなければ効果がないことから、普及率の低さが効果の低さに直結することも現実的に問題になってきました。

circle説明図

我々が提唱するCIRCLE法(Computation of Infection Risk via Confidential Locational Entries)は、Bluetooth法の有する欠点を補うもので、2017年頃より国内で研究が進められてきました。感染者数が少ない段階では、患者の発表情報を見ながら自分の行動と照らし合わせて接触の可能性を確認した方も少なくないでしょう。CIRCLE法は、その行為を、情報を「秘匿」してプライバシーを守りながら、自動的に、より高精度に行うことができるようにしたもので、Bluetooth法と異なり、自分だけがアプリをインストールしていても接触判定が可能です。この手法では、公衆衛生当局側は、秘密保持契約を締結したうえで、患者の行動歴を携帯電話会社に提供します。携帯電話会社は、携帯電話のユーザーからの依頼に基づいて、電話の位置情報履歴と患者移動情報との交差を計算し、患者情報を「秘匿」しながら接触のリスク情報のみをユーザーに返答します。患者の行動歴を一般公開することもなく、アプリ利用者の行動歴を不必要に行政に渡すこともなく、プライバシー情報を守りながら感染のリスクのみを効率的に通知することが可能となります。

COCOAが採用しているBluetooth方式とCIRCLE法は、感染リスクの管理手法として相補的な特性を有しています。CIRCLE法では、Bluetooth方式ではカバーできないドアノブを介した感染や換気の悪い密閉空間における接触リスクを検知することができますが、Bluetooth方式のように接触を直接検知することはできません。一方、Bluetooth方式では、住民の大多数がアプリを利用しなければ接触を効率的に検知することができませんが、CIRCLE法の検出性能には住民の利用率に影響を受けません。我々の研究グループでは、新型コロナウイルスによるパンデミックの発生前、2019年より厚生労働省による研究助成を受け、また、2020年からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を受けて、本方式の実用化に向けた研究を進めています。