携帯電話関連技術を用いた感染症対策に関する包括的検討

令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)
社会技術研究開発センター (RISTEX)
科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム

研究代表者:米村滋人 技術検討グループ
 

研究概要

感染対策アプリの普及

2020年に生じた新型コロナウイルスによるパンデミックにおいては、携帯電話を活用した感染症対策が多数登場しました。日本では、携帯間のBluetooth通信を利用した接触確認アプリCOCOAが作られました。韓国では、携帯電話の位置情報が接触者の追跡に用いられ、台湾では、携帯のGPS情報が自宅隔離の確認に用いられれたとされます。公共施設等においては、訪問を登録し感染者の発生を通知する携帯電話用のQRコードが掲示される例も増えています。

このような感染症危機管理にに携帯電話を活用するための研究は2010年頃に登場しました。そうした研究では、携帯の基地局情報やGPS情報などの位置情報、Bluetoothや地磁気センサを利用した接触情報など、今回のパンデミックで初めて実用化された様々な技術が試行されてきました。余り知られていませんが、日本でも2017年頃より携帯電話を感染症危機管理に活用する手法の研究が進められており、実用化に向けた準備がなされていました。しかし、この分野は、研究分野としてまだまだ萌芽期にあたり、十分に成熟した成果を世に送り出すには至っていませんでした。

パンデミックでの感染対策アプリ

2020年にパンデミックが発生した際にも、喫緊の課題に対処するため、十分な研究期間を経ていない未成熟な技術が用いられ、時には急造され、実戦投入されました。そのため、事前の検討や検証が不十分なまま利用されるケースも生じました。例えば、日本で利用されている接触確認アプリCOCOAでは、濃厚接触か否かを「1 mの接触を15分間継続」という基準で判定していました。一方、満員電車では1m未満の密接状態が15分間以上保たれることも珍しくありませんが、満員電車を介した接触の拡大はほとんど観測されていないことからも、この状況下でのCOCOAの検知のほとんどは「誤検知」となるでしょう。一方で、1m以上距離があっても、空調の流れに沿って感染が拡大したケースは報告されています。

そうした状況下での感染は、COCOAでは検知することができません。こうしたアプリは、そもそもどういう基準を設ければ感染の何パーセントを捕捉できるのかという確認もなされないまま、実戦投入されたのです。

改善への取り組み

携帯電話を用いた感染症対策技術には、このように技術的に未成熟なまま新型コロナ対策に投入されたものが少なからず存在します。そのため、有効な感染対策のためには、関連技術を評価し、その結果を技術の改善へとフィードバックしていく試みが不可欠です。我々のグループでは、これら携帯電話を用いた感染症対策について、技術的な観点からの評価を試みます。具体的には、接触確認アプリCOCOAの性能評価に向けたシミュレーション、実測調査、我々が提唱してきた「CIRCLE法」との比較の他、感染リスクの管理に向けた各種手法の技術評価と新たな技術の検討を進めています。
circle説明図

プレスリリース

北見工大における新型コロナ研究-COCOA評価-0514

北見工大における新型コロナ研究-接触リスク計算手法-0520